• 1月 26, 2026

咳喘息は喘息じゃないの?:呼吸器専門医が解説

辻医院の副院長の辻です。
寒くなり咳でお困りの患者さんの受診が増えてまいりました。
その中で、「咳喘息と喘息は違うの?」といわれることが多くございます。
喘息と咳喘息は何が違うのか、「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」を参考にまとめてみたいと思います。

当院は京都市伏見区醍醐合場町にある、呼吸器内科を中心とした内科医院です。
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咳喘息と典型的喘息の違い

― 似ているけれど、実は違う2つの病気 ―

「咳だけが続くけれど、喘息でしょうか?」
外来でとてもよく聞かれる質問です。

咳喘息と典型的喘息は、どちらも「気道の慢性炎症」という共通点を持ちながら、
症状の出方や咳が起こる仕組みにははっきりした違いがあります。

1.症状と定義の違い

最大の違いは「ゼーゼーするかどうか」

▶ 典型的喘息(いわゆる喘息)

ゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)

息苦しさ(呼吸困難)

この3つがそろうのが特徴です。
聴診器で胸の音を聞くと、息を吐くときに喘鳴が確認できます。

▶ 咳喘息(Cough Variant Asthma:CVA)

症状は「咳だけ」

ゼーゼー音は聞こえません

息苦しさもありません

8週間以上続く慢性の咳の原因として非常に多く、
痰を伴わない乾いた咳が続くのが典型的です。

👉 「喘鳴や息苦しさがないのに、咳だけが止まらない」
それが咳喘息の大きな特徴です。

2. 病態生理(メカニズム)の違い

両者とも「好酸球性気道炎症」と「気道過敏性(AHR)の亢進」を基本病態としますが、その程度や咳の発生機序に違いがあります。

炎症と過敏性の程度

咳喘息は典型的喘息に比べて、一般的に気道炎症、気道のリモデリング(壁の肥厚など)、気道過敏性の程度が軽い傾向にあります。

咳の発生機序(咳受容体の感受性)

ここが重要な相違点です。気管支平滑筋が収縮した際の反応が異なります。

咳喘息: 気管支平滑筋のわずかな収縮でも、咳受容体が過敏に反応して咳が発生します(収縮に対する咳反応が亢進している)。

典型的喘息: 気管支平滑筋収縮に対する咳反応性はむしろ低下しています。しかし、強力な平滑筋収縮が生じるため、それが過剰刺激となって咳が発生すると考えられています。

つまり、咳喘息は「気道が少し狭くなっただけで敏感に咳が出る状態」、典型的喘息は「気道が大きく狭くなって喘鳴や呼吸困難が出る状態」と言えます。

難しいですね。
気道(空気の通り道)には、
空気を通すための筋肉(気管支平滑筋)
刺激を感じ取るセンサー(咳受容体)

があります。

咳喘息では気道の筋肉がほんの少しキュッと縮むだけなのに咳のセンサーが過敏に反応して
「危険だ!」と勘違いして咳が出てしまいます

👉 つまり
「ゼーゼーするほど狭くなっていないのに、咳だけが出続ける」
という状態です。
🚨 火災報知器で例えますと

咳喘息
→ 少し湯気が出ただけで火災報知器が鳴る

典型的喘息
→ 本当に火が出てから火災報知器が鳴る

かえってわかりにくいでしょうか?咳喘息は、「警報装置が敏感すぎる状態」と考えることができます。

また咳喘息は喘息に移行ことがあるとされています。

咳喘息は喘息の前段階や軽症型と考えられており、成人の咳喘息患者の約30〜40%が典型的喘息へ移行するとされていますが、適切な治療やリスク因子の管理によりその移行率を低下させることが可能とされています。

移行予測因子として、以下の特徴が挙げられています。

①. 治療状況(吸入ステロイド薬の不使用)

最も大きな要因の一つは適切な治療の有無です。吸入ステロイド薬(ICS)が十分に普及していなかった時代には高い割合で移行していましたが、診断時からICSを使用することで移行率は低下します。したがって、早期から抗炎症治療を行っていないことが主要な移行リスクとなります。

②. 生理学的・病理学的な特徴

ICSを使用していないこと以外に、以下の身体的特徴を持つ人は移行しやすいとされています。

気道過敏性の亢進(AHR): 気道が刺激に対して過敏に収縮しやすい状態が強いこと。

好酸球性炎症: 喀痰中や末梢血中の好酸球が増加していること(気道の炎症が強いことを示唆します)。

呼吸機能の低下: 1秒量(FEV1)が低い値を示していること。

③. アレルギー素因(アレルゲン感作)

特定のアレルゲンに対して感作(アレルギー反応を示す状態)が成立している場合、移行リスクが高まるとされています。具体的には以下のアレルゲンが挙げられています。

ハウスダスト・ダニ

イヌ皮屑(ひせつ)

④. その他の難治化・長期化しやすい特徴

典型的喘息への移行そのものではありませんが、治療が難渋しやすく長期化しやすい(結果としてリスクとなりうる)特徴として以下も挙げられています。

混合型炎症: 治療開始前の喀痰検査で、好酸球と好中球の両方が増加しているタイプは、ICS開始後の減量が困難であるとされています。

喫煙: 喫煙を継続している症例は、長期の治療継続が求められる傾向にあります。

年齢: 若年者のほうが治療中止後に再発のない「寛解」が得られやすい傾向があり、裏を返せば高齢であることは症状持続のリスクとなり得ます。

増悪の反復: 増悪を繰り返す難治例では、呼吸機能(FEV1)の経年低下が大きいとされています。

3.診断について

  • 典型的喘息: 症状(喘鳴)、呼吸機能検査(気流閉塞とその可逆性)、気道過敏性試験などで総合的に診断されます。
  • 咳喘息の診断基準:
    1. 喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上持続する(聴診でも喘鳴なし)。
    2. 気管支拡張薬(β2刺激薬など)が有効である。 これらを満たすことで診断されます。
      ※ 呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は両者で上昇する傾向があり、補助診断として有用ですが、感度は高くありません(数値が低くても否定はできない)。

文字にするとあっさりしていますが、両者の明確な区別はかなり難しいですし、厳密な区別を必ずしなければいけないかというとそういうわけでもありません。

1. 厳密な区別が必須ではない理由
咳喘息と典型的喘息は、病態や治療法において共通点が多く、連続した疾患スペクトラム(一連の病気)として捉えられています。

病態の連続性

咳喘息は典型的喘息の「軽症型」あるいは「前段階」と考えられており、病態には重なりや連続性があります。咳だけを訴える「咳喘息」と、咳が主だが喘鳴も伴う「咳優位型喘息」、そして「典型的喘息」の間で明確に線を引くことは容易ではありません。

治療の共通性:

両者とも治療の基本方針は同様です。吸入ステロイド薬(ICS)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)を中心とした治療が行われるため、厳密に区別しなくても治療を開始することは可能です。

世界的な流れ

国際的には、混乱を避けるためにこれらを一括して「喘息性咳嗽(asthmatic cough)」と呼ぶことが推奨されています。

2. 「何と」区別しなければならないか

咳喘息か典型的喘息かの区別よりも重要なのは、「喘息性の咳」か「それ以外の咳」かを見極めることです。特に以下の疾患との鑑別が重要視されています。

アトピー咳嗽との鑑別

◦ アトピー咳嗽は「気管支拡張薬が無効」で「ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗アレルギー薬)」が有効な疾患です。

◦ 一方、咳喘息(および典型的喘息)は「気管支拡張薬が有効」であることが診断の決定打となります。

◦ この2つを取り違えると、効果のない薬(咳喘息に抗ヒスタミン薬、アトピー咳嗽に気管支拡張薬など)を使い続けることになり、治療が奏効しません。

3. 咳喘息と診断することの意義

喘息との厳密な区別は治療薬選択上は必須ではありませんが、「咳喘息」と診断することには以下の意義があります。

進行予防の意識: 咳喘息は放置すると約30〜40%が典型的喘息(喘鳴や呼吸困難を伴う状態)へ移行します。しかし、早期に吸入ステロイド薬を使用することでこの移行を防げることがわかっています。

病態の把握: 典型的喘息に比べて気道炎症や過敏性が軽度であることや、気管支平滑筋のわずかな収縮で咳が出る(咳反応が亢進している)という咳喘息特有の特徴を理解しておくことは、経過観察において有用です。

4.治療

治療薬は共通していますが、咳喘息は「喘息の前段階」としての側面があります。

両者とも吸入ステロイド薬(ICS)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)が治療の中心です。ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)も咳喘息に有効とされています。

①. 移行を防ぐ中心的な治療薬:吸入ステロイド薬(ICS)

咳喘息から典型的喘息への移行を抑制する効果が確認されているのは、吸入ステロイド薬(ICS)です。

  • エビデンス: 吸入ステロイド薬の使用が不十分だった時代には、成人の咳喘息患者の 30〜40% が典型的喘息へ移行したとされていますが、診断時からICSを使用することでこの移行率は低下します。
  • 他の薬剤との違い: 咳喘息の治療薬として「ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)」も有効であり症状を改善させますが、LTRAに関しては典型的喘息への移行を防止する作用までは報告されていません。

②. 現在推奨されている標準的な初期治療:ICS/LABA

最新のガイドラインでは、ICS単剤よりもさらに効果が高く速効性のある、吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬の配合剤(ICS/LABA) が、基本的な初期治療として推奨されています。

  • 推奨の理由: 咳喘息の病態には「気道炎症(2型炎症)」と「気道の狭窄(気流閉塞)」の両方が関わっています。ICS(抗炎症作用)とLABA(気管支拡張作用)を併用することで、これらを同時に治療し、早期に症状を改善させることが可能です。
  • 具体的な薬剤例: フルティフォーム®、アドエア®、シムビコート®、レルベア®、アテキュラ®などが挙げられます。

③. 治療の継続と終了の目安

症状が改善してすぐに治療を止めると再発しやすいため、適切な期間治療を継続することが重要です。

  • ステップダウン療法: 治療開始後、症状が安定したら(2〜3ヶ月ごとになど)、いきなり中止するのではなく、薬の種類を減らしたり用量を減らしたりする「ステップダウン」を行います。
  • 中止の目安: 明確なエビデンスはありませんが、例えば治療開始から1〜2年後にICSを最低用量まで減量しても無症状であれば、再燃の可能性を考慮しつつ中止を検討できるとされています。
  • 長期治療が必要なケース: 喘息への移行リスクが高い人(アレルゲンへの持続的な曝露がある、喫煙を継続している、過去に増悪を繰り返しているなど)は、長期的な治療継続が求められます。

まとめ

咳喘息から喘息への移行を防ぐためには、単なる咳止めではなく、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬(またはICS/LABA配合剤)による治療を早期に開始し、医師の指示に従って一定期間継続することが具体かつ有効な手段です。

特徴典型的喘息咳喘息 (CVA)
主な症状咳、喘鳴、呼吸困難咳のみ (喘鳴・呼吸困難なし)
気道狭窄の程度高度 (喘鳴が生じるレベル)軽度 (喘鳴が生じないレベル)
気道炎症・過敏性強い比較的軽い
気管支収縮への反応咳反応は低下 (強い収縮で咳が出る)咳反応が亢進 (わずかな収縮で咳が出る)
気管支拡張薬有効有効 (診断の決め手)
位置づけ完成された病態喘息の前段階・軽症型

喘息についての記事はこちら

喘息治療についてはこちらをご覧ください。

咳喘息と喘息、簡単に見分けがつくような印象かもしれませんが、実際は難しいです。

治療はほぼ変わらないため、どこまで明確にするか、難しいところですが、両疾患に共通するのは
咳がとまっても「吸入を勝手にやめない」ということです。
高血圧も、糖尿病も、脂質異常症も、治療を自己中断される方は少なくありませんが、喘息はもっと自己中断率が高くなります。
将来の肺機能を低下させないために、しっかりと治療を継続することが重要です。

咳が止まると吸入もめんどくさくなるものですが、そこをぐっとこらえて治療を継続してください。




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