• 5月 5, 2025
  • 5月 6, 2025

過敏性肺炎とは?これからの時期に増加する肺の病気!原因・症状・検査・治療法をわかりやすく解説 

その咳、過敏性肺炎かもしれません
「咳がずっと続くけど、風邪じゃない」「家にいると息苦しくなる」――そんな経験はありませんか?
もしかすると、それは過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis:HP)という疾患かもしれません。

過敏性肺炎は、空気中の特定の物質に対する免疫反応によって肺が炎症を起こす病気です。

先日載せました間質性肺疾患の一種類です。特にカビや鳥の羽・フン、農作業に伴う有機粉塵、エアコン内部の微生物などが原因になります。

日本では「夏型過敏性肺炎」も知られており、特にじめじめと湿度の高くなるこれからの季節に発症者が増えることから、家庭環境との関係性が強い病気といえるでしょう。

過敏性肺炎とは?その正体と病態

過敏性肺炎は、以前は「外因性アレルギー性肺胞炎」とも呼ばれていました。
有機物質などの抗原が肺に吸い込まれることで、肺胞周囲に炎症反応が起きる疾患群です。

この疾患の発症には、以下のような抗原(原因物質)が関与しています。

抗原の種類主な環境・職業
トリコスポロン属カビ木造住宅、加湿器、エアコン内部(夏型過敏性肺炎)
鳥類の羽や糞ペット(インコ、文鳥など)、鳩小屋(鳥飼病)
放線菌(Micropolyspora属)農家、干し草、飼料倉庫(農夫肺)
金属加工油のミスト機械工場、切削作業現場(塗装工肺など)
水回りの真菌・細菌温水プール、加湿器、スパ施設(hot tub lung、加湿器肺)

✅ 実は 300種類以上の抗原 が報告されており、家庭内環境でも発症する可能性があります。特にカビやペット、加湿器の使用には注意が必要です。ありとあらゆる環境で過敏性肺炎が起こりえると考えられます。

症状

急性型(非線維化型過敏性肺炎)

原因物質に曝露された数時間の間に以下のような症状が見られます。

  • 発熱(38℃前後)
  • 空咳
  • 胸の不快感
  • 倦怠感、寒気

これらは風邪やインフルエンザと似ていますが、抗原に近づくと悪化し、離れると改善するという特徴があります。

亜急性・慢性型(慢性非線維化型過敏性肺炎/慢性線維化型過敏性肺炎)

数週間~数ヶ月かけて進行し、以下のような症状が慢性的に見られます。

  • 労作時の息切れ(階段昇降時など)
  • 持続する乾いた咳
  • 食欲不振、体重減少
  • 末期にはチアノーゼ、バチ状指

このようなケースでは、肺の線維化(硬化)が進んでいる可能性があり、不可逆的な障害につながります。

流行状況と疫学

全体の発症頻度
米国の保険データでは、2004〜2013年の間に約7,498例のHPが報告されました。
有病率は人口10万人あたり1.7〜2.7人で、65歳以上では最大11人/10万人まで上昇しています。

日本における「夏型過敏性肺炎」
日本では「夏型過敏性肺炎」が特徴的で、全体の約7割を占めます。報告によってはトリ関連の過敏性肺炎が6割を占めているものもあります。
夏型過敏性肺炎の主な原因はトリコスポロン属カビで、木造住宅・湿気の多い地域で多発します。症状は8月から現れ、入院は9月〜10月に増加します。これからの時期に注意が必要です。
*近年気密性の高い住居の登場により室内の湿度が高くなり、トリコスポロン以外の、アスペルギルス属やペニシリウム属、クラドスポリウム属などのカビが原因による過敏性肺炎も報告され、住居関連過敏性肺炎と2022年のガイドラインでまとめられています。(過敏性肺炎診療指針2022

誰にでも発症するの??

例えばトリ関連であれば、ハトの飼育者であれば6~20%で発症したという報告が有ります。インコ飼育者であれば0.6~7.5%と報告されています。家族内で発症される割合は高いとされ、遺伝的要因の関与が示唆されています。

診断:何よりも「聞き取り」が大事


診断には、画像・血液・肺機能などの複数の検査を組み合わせて行いますが、 最も重要なのは生活背景の聞き取りです。

なかなか原因物質を特定することは難しいのですが、急性型で職業と関連している場合は、仕事をしている平日に症状が出現し、週末や長期休暇では症状が改善する、というようなエピソードは疑うきっかけになります。これが慢性型で徐々に進行していく場合では、特定の場面での症状の増悪というものはほぼないため、症状から原因の物質の特定を行うことは非常に難しいといわざるをえません。

主な検査項目

主な検査としては、画像検査、血液検査、気管支肺胞洗浄や肺生検となります。

画像検査

画像検査では胸部X線写真やCT検査になります。

非線維化型過敏性肺炎(nonfibrotic HP)の画像所見

非線維化型過敏性肺炎で最も一般的に見られる所見は、びまん性のすりガラス陰影です。
ただし、すりガラス陰影は一過性であることが多いため、高分解能CT(HRCT)では正常に見える場合もあります。なお、すりガラス陰影自体は非特異的な所見です。

HRCT上で過敏性肺炎に特徴的とされるためには、末梢気道病変の所見も伴っている必要があります。それには以下のような所見が含まれます

  • 境界不明瞭な小葉中心性結節
  • モザイクパターン
  • 呼気時のエアトラッピング

「モザイクパターン」と「three-density pattern」

すりガラス陰影と、透過性および血管密度の低下した領域が混在することで、肺野に“モザイクパターン”が形成されます
これにより、すりガラス陰影、低透過領域、正常肺が隣接する特徴的な構図となり、これがいわゆる「three-density pattern」と呼ばれます(かつて「ヘッドチーズサイン」とよばれていました)。この所見は過敏性肺炎に特異的です。

また、エアトラッピング(空気の閉じ込め)は、吸気時と呼気時のCT画像を比較することで最もよく分かります

線維化型過敏性肺炎(fibrotic HP)の画像所見

線維化はランダムに分布することもあり、中肺野優位に現れることや、相対的に肺底部が保たれる場合もあります。牽引性気管支拡張や蜂巣肺が見られることもあり特発性肺線維症など、他の進行性繊維化を伴う間質性肺炎と区別が難しいこともあります。

末梢気道病変の証拠としては、びまん性すりガラス陰影、小葉中心性粒状影、吸気時のモザイク様陰影、呼気時CTにおけるエアトラッピングなどが挙げられます。

網状影と「three density pattern(三重濃度パターン)」の組み合わせは、線維化型過敏性肺炎においても非常に特異的といわれます。

ただし、他の間質性肺疾患と画像だけで区別することが難しい場合も多いです。

まとめてみますと

🟢 非線維性過敏性肺炎(acute/subacute HP)

  • 吸気・呼気比較でのair trapping(エアトラッピング)
  • びまん性すりガラス陰影(GGO)
  • 小葉中心性微細結節(<5mm)
  • モザイク様陰影(mosaic attenuation)
  • three-density pattern(三重濃度パターン)

🔴 線維性過敏性肺炎(chronic/fibrotic HP)

  • 粗い網状影(coarse reticulation)
  • 不整な線状陰影(irregular linear opacities)
  • 牽引性気管支拡張(traction bronchiectasis)
  • 蜂巣肺(honeycombing)
  • 肺の変形(architectural distortion)
  • 中肺野優位 or 肺底部相対的保たれるパターン

血液検査

血液検査としては、間質性肺炎の検査として一般的なKL-6やSP-Dを測定します。その他に特異的IgG抗体の血清学的検査として特異的IgG抗体を検出するための血清学的検査を行うことがあります。本邦ではできる検査に限りがあります。そして、その診断的有用性には議論があります

感度や特異度は、抗原の種類、曝露の頻度や期間、喫煙歴、疾患の進行段階によって異なるとされます。これらの検査はあくまでも「抗原への曝露歴の証拠」として扱われるべきであり、陽性=病気とは限らず、陰性=過敏性肺炎(HP)の否定にもなりません

病理検査

肺の一部を取り出し、顕微鏡で検査する病理検査で、過敏性肺炎かどうかを確認する方法もあります。気管支鏡によるクライオバイオプシーや外科的肺生検で組織を採取します。病理所見についてはブログで記載する内容をはるかに超えるため、ここでは触れません。

治療と予防:環境の見直しが最優先

治療は原因の物質から隔離することが最優先になります。

原因抗原からの隔離とは、飼育しているトリとの隔離、住環境を変える、ということになりますが、飼っていたペットとお別れしたり、引っ越ししたりすることは簡単なことではありません。

過敏性肺炎と診断することは、上記を患者さんに検討いただくということにほかならず、その診断は非常に重みがあります。

薬物治療

過敏性肺炎の薬物治療をまとめてみます。

1. 基本方針

  • 治療の基本は抗原回避:抗原量が少ないほど予後が良好となるため、環境改善が最優先です。
  • 薬物療法は補助的治療:抗原の特定が困難な場合、または抗原回避後も病状が進行する場合に検討されます。

2. 非線維性過敏性肺炎(急性・亜急性型)

ステロイド療法

  • プレドニゾロン:0.5~1.0 mg/kg/日で開始することが多いと思います。
  • 重症例(低酸素血症あり):メチルプレドニゾロン0.5~1g/日×3日間のステロイドパルス療法を行い、以降プレドニゾロン内服へ切替を行なったりします。
  • 治療期間:明確なコンセンサスはないが、目安として約1か月程度の治療期間となることが多いです。急性型の場合は環境隔離ができれば、ステロイドも不要となることも多いため、ステロイドをどれくらい使うかよりもしっかり環境隔離を行うことが最優先になります。

3. 線維性過敏性肺炎(慢性型)

ステロイド・免疫抑制療法

  • プレドニゾロン:0.5~1.0 mg/kg/日で開始し、症状や画像所見を見ながら漸減することが多いと思います。
  • 長期使用が必要な場合:ステロイドの副作用軽減のために以下を併用する場合がありますが両薬剤ともに保険適応外の使用となるため、呼吸器専門医にしっかりと見てもらいましょう。
    • アザチオプリン
    • ミコフェノール酸モフェチル(MMF)

抗線維化薬

ニンテダニブ(Nintedanib)

進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対して使用可能な薬剤です。線維化にかかわる3つのチロシンキナーゼを阻害するトリプルキナーゼ阻害薬になります。蜂巣肺や、牽引性気管支拡張など通常型間質性肺炎(UIP)様病変がある場合は、ステロイドを減量し抗線維化薬治療が主体となるケースもあります。ピルフェニドン(Pirfenidone)も線維化の抑制にエビデンスのある薬剤ですが、日本国内では過敏性肺炎に対する保険適応が現段階では有りません。

4. 治療効果と予後

抗線維化薬(特にニンテダニブ)はPF-ILDの進行抑制に有効であり、将来的な標準治療としての確立が期待されています。ステロイドは急性型において短期的な効果はあるが、長期予後改善には明確なエビデンスはありません。

やはり何より重要なのは環境隔離となってきます。

過敏性肺炎と診断された方へ 〜再発を防ぐための生活上の注意点〜


過敏性肺炎(HP)は、カビや鳥のフン、農業や仕事中のホコリなど、空気中の「抗原(アレルゲン)」を吸い込むことで肺に炎症が起きる病気です。
治療には薬の力も必要ですが、最も重要なのは抗原との接触を避ける「環境管理」です。

ここでは、日常生活で気をつけるべきポイントをわかりやすくご紹介します。

🐦 鳥が原因と考えられる場合(鳥関連過敏性肺炎)

  • ペットのインコ・文鳥・オウムなどは飼育を中止しましょう。
  • 羽毛布団やダウンジャケットは処分してください(家族の分も含む)。
  • 鶏糞や羽毛入り枕・クッションも避けましょう。
  • 鳩が多く集まる公園や駅前のベンチなども、できるだけ避けてください。

🏠 家のカビや構造が原因と考えられる場合(夏型・住居型)

  • 木造住宅・湿気の多い場所は注意が必要です。
  • 濡れた畳、押し入れのカビ、雨漏りした壁、古いエアコンの内部にカビが発生しやすくなります。
  • 対策として、室内のこまめな換気、浴室・キッチン・洗濯機周辺の乾燥、必要に応じてリフォームや転居を検討しましょう。

🚜 お仕事中の環境が原因と考えられる場合(農業・工場など)

  • 農作業・飼料倉庫・木材加工などが原因の場合があります。
  • 防ぐためには:マスク(N95など)を着用する、作業場の換気を良くする、場合によっては配置転換や職場変更も必要になることがあります。

🚭 日常生活での注意点

  • 禁煙はとても大切です。喫煙により肺の炎症が悪化しやすくなります。
  • インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種もおすすめです。
  • 疲労・ストレス・感染症で悪化することがあるため、無理のない生活を心がけましょう。
  • 家族や職場にも説明し、抗原を避けるための協力を得ることが大切です。

🔍「旅行先で咳が出ない」はヒントになります


自宅や職場を離れると症状が軽くなる、という方は、生活空間に原因がある可能性が高いです。
このような場合は、自宅や職場の環境調査や抗原除去について、医師と相談してください。

最後に

過敏性肺炎は、抗原を避けることで再発や進行を防げる病気です。
「何となく体調が悪い」「咳が続く」という小さな変化も見逃さず、定期的な診察と検査を受けるようにしましょう。

過敏性肺炎の診断は当院だけでは絶対に無理です。血液ガス、肺機能検査、CT、気管支鏡ができる環境、場合によっては呼吸器外科の先生に手術をしていただく必要もあります。

疑うきっかけを発見することは当院でも可能です。大きな病院と連携した診療を行います。心当たりのある方はお気軽にご相談ください。


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