• 10月 8, 2025

喘息治療の最新ガイド|吸入薬・生物学的製剤|京都市伏見区の辻医院 喘息の治療について解説

喘息治療はここ数年で大きく進化しています。
発作をその場で止めるだけでなく、炎症そのものを抑え、発作を起こさない体をつくることが治療の中心となりました。

当院では、吸入ステロイド薬(ICS)を基本に、呼気NO(FeNO)による炎症の見える化、
生物学的製剤を組み合わせ、一人ひとりに最適な治療を行っています。

「咳が続く」「夜間に息苦しい」「季節の変わり目がつらい」
そんな方は、症状を我慢せずに、ぜひ一度ご相談ください。

京都市伏見区醍醐合場町の緑萌会 辻医院(呼吸器内科)では、
最新の知見に基づいた診断と治療で、発作のない穏やかな毎日をサポートしています。

喘息という病気の説明、診断方法についてはこちらをご覧ください。

喘息治療の目標

喘息治療の考え方は、近年大きく変わってきています。
単に咳や息苦しさなどの症状を抑えるだけでなく、「炎症をどれだけ抑えられているか」を評価し、将来の悪化(増悪)を防ぐことが重要視されています。

● 喘息症状コントロールの最適化 — 良好な喘息コントロールとは、喘息症状の強さと頻度を減らし、通常の活動水準を維持することを目標とします。
具体的な目標は

  • 頻回または煩わしい喘息症状(咳、胸部圧迫感、喘鳴、呼吸困難)がないこと
  • 喘息による夜間覚醒が稀、あるいはほぼないこと
  • 発作治療薬(メプチンやサルタノールなど)の必要性が最小限であること
  • 肺機能の最適化
  • 通常の生活活動(仕事・学校への出席、運動やスポーツ参加)ができること
  • 患者さんやご家族が喘息診療に満足していること

● 将来の悪化を防ぐ — 将来の増悪というのは喘息増悪、成人では経時的な肺機能低下、喘息薬による副作用(特にステロイドの全身投与)が含まれます。過去1年に1回以上の増悪歴は将来の増悪の独立したリスク因子であり、また、薬物アドヒアランス不良(毎日吸入しない)、吸入手技の誤り、低肺機能、喫煙や電子たばこ、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)の上昇、好酸球増多もリスク因子といわれています。


治療について

悪化の原因のコントロール

喘息が悪化する原因が存在することがあります。以下のようなものが挙げられます。

  • 一般的な原因
    • アレルゲン:花粉、ペット、カビ、ゴキブリ等
    • 刺激物:煙・蒸気等
    • ウイルス感染症
    • 生理的要因:ストレス、ホルモン、運動など

これらの吸い込まないようにしたり避けたりすることは非常に重要です。特にウイルス感染は非常に重要な悪化の原因となります。このために、予防接種は非常に重要です。

当院でもインフルエンザやコロナ、RSウイルスの予防接種を行っております。ご希望方はご連絡ください。インフルエンザワクチンについてはこちらをご覧ください。

薬物療法の開始

悪化の原因となるもの避けたとしても、薬物治療が必要となることが多いです。

治療の中心は、吸入のお薬です。

  • 発作時の症状緩和に用いるもの
  • 長期管理に用いるもの

があります。基本的には長期管理に用いる薬が主役になります。
ここで重要なことは、「症状がなくなっても薬をやめない」ことです。
当院では繰り返し説明をさせて頂いておりますが、症状がない=喘息が治ったわけではありません。

ではまずは発作治療薬について

発作治療薬:短時間作用型β刺激薬(SABA) 

メプチンエアー、ベネトリン、サルタノールなどの薬剤です

喘息患者さんであれば、手元に必ずおいておく方がよい薬剤になります。期限切れになる前に担当の先生に処方してもらいましょう。

*海外ではAnti-Inflammatory Reliever(AIR)という方法が用いられております。これは現在本邦では添付文書上は適応外使用となるので、この方法をしてくださいとは言えない状態です。

🫁 AIR(抗炎症性リリーバー)とは?

AIRとは、「抗炎症作用を持つリリーバー」という意味で、
吸入ステロイド薬(ICS)+速効型β2刺激薬(LABA:ホルモテロール) の配合剤を、
症状が出たときに使用する治療方法です。

🔹 従来との違い

比較項目従来の頓用薬(SABA)AIR療法(ICS+ホルモテロール)
成分気管支拡張薬のみ(例:サルブタモール)炎症を抑える薬+拡張薬の両方
効果発作時に気道を広げる発作を抑えながら炎症も鎮める
問題点炎症が残り悪化しやすい炎症を同時に抑え再発を防ぐ

つまりAIRは、
症状を楽にするだけでなく、「悪化しない体質」に導くという考え方です。もう少しすると日本でもこの方法で薬が使えるようになると思いますが・・・

そこで、現在の日本では発作治療薬は

  • 短時間作用型β刺激薬(SABA):メプチンやサルタノール、ベネトリンなどになります

長期コントローラー

長期的に喘息をコントロールしていく上で欠かせない薬剤になります。

🫁 コントローラーの目的

喘息の本当の原因は「気道の慢性炎症」です。
咳や息苦しさはその結果にすぎません。

したがって治療の目的は、単に発作を止めることではなく、炎症を鎮めて発作そのものを起こさないようにすることです。これを実現するのが「コントローラー(Controller)」です。

💊 主なコントローラー薬の種類と特徴

分類薬の種類作用のポイント代表的な薬剤
ICS(吸入ステロイド)炎症を直接抑える喘息治療の基本・中心薬フルタイド、パルミコートなど
ICS+LABA(配合薬)炎症を抑えながら気道を広げる中等症以上で使用、使いやすい1本2役シムビコート、レルベアなど
LTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)炎症性物質の働きをブロック錠剤なので吸入が苦手な人にもシングレア、キプレスなど
LAMA(長時間作用型抗コリン薬)気道の緊張を緩めて広げる他薬で不十分な場合に追加スピリーバ、エンクラッセなど
生物学的製剤好酸球やIgEを標的に抑える重症喘息向けの注射薬ヌーカラ、ファセンラ、デュピクセント、テゼスピレなど


💨 吸入ステロイド(ICS)が治療の中心

喘息治療のベースは吸入ステロイド薬(ICS)です。
気道の炎症を直接鎮めることで、

  • 発作を防ぐ
  • 夜間の咳を減らす
  • 肺機能の低下を防ぐ
  • 死亡リスクを減らす

といった明確な効果が証明されています。

ただし、毎日きちんと使うことが最も重要です。
使い忘れや自己判断での中止は、増悪(悪化)の最大の原因です。

💡 吸入方法の工夫(重要ポイント)

吸入薬は、「薬が正しく肺まで届くか」がすべてです。
間違った吸い方では効果が大きく減ってしまいます。

正しい使い方の基本:

  • 使用前に息をゆっくり吐く
  • しっかり吸い込みながら吸入ボタンを押す(または吸い込む)
  • 息を5〜10秒止める
  • 吸入後はうがいをする(ステロイドの副作用予防)

💡 コツ:同じ吸入器のタイプを使うようにするとミスが減ります。

吸入薬は「薬を直接気道に届ける」ため、効果が高く、全身への影響が少ないのが特徴です。しかし、使い方や管理を誤ると、副作用が出やすくなったり、十分な効果が得られないこともあります。

吸入薬の代表的な副作用と注意点を以下に示します。

分類主な副作用発生の理由・対策
ICS(吸入ステロイド)口腔カンジダ(白い苔)、声枯れ(嗄声)吸入薬がのどに付着するため。
→ 吸入後にうがい・口すすぎを行うことでほぼ防げます。
咽頭違和感・咳吸入時の刺激による。吸入速度をゆっくりにすると軽減。
ごくまれに全身性副作用(骨粗しょう症・皮膚菲薄化など)高用量を長期使用した場合。定期的に医師が調整します。
長時間作用型β刺激薬動悸・手の震え・不眠気管支拡張作用による一時的な刺激。通常は軽度。
依存的使用で悪化「発作時のみLABA使用」は禁忌。必ずICSと併用する。
抗コリン薬口の渇き、便秘、排尿しづらさ抗コリン作用による。水分摂取を意識。高齢者は注意。
SABA(発作止め)動悸・手の震え頻回使用でリスク増。発作が続く場合は治療全体を見直す。
ICS+LABA配合薬上記のICS・LABAの両方の副作用吸入後のうがい・1日使用量を守ることで安全に使用可。

💡 安全に使うためのポイント

吸入後は必ずうがいを!
ステロイドがのどに残るとカンジダ症や声枯れの原因になります。
水またはぬるま湯で30秒程度うがいをしましょう。

正しい吸入方法を守る
吸い込みが弱いと薬が肺まで届きません。
医師・薬剤師に吸入手技をチェックしてもらうのがおすすめです。
タービュヘイラー・ディスカス・レスピマットなど機種によって吸い方が異なります。

使う時間を一定に
毎日同じ時間に吸入することで効果が安定します。
朝晩2回タイプは、なるべく12時間間隔で。

症状がなくても続けることが大切
炎症は症状がなくても続いていることがあります。
自己判断で中止せず、医師の指示で調整しましょう。

吸入器の管理に注意
ノズルの汚れや湿気で薬が出にくくなることがあります。
定期的に乾いた布で拭き取り、洗浄が必要なタイプは取扱説明書に従って。

● 発作を起こした場合

咳がとまらない、息が詰まる感じがする、息苦しいなどの症状がひどくなった場合を発作と呼びます。発作治療薬であるSABAを使用し、治まるようであれば問題ありませんが、短期の全身ステロイド投与が必要となることも多いです。

ステロイドは必要な場合に適切な管理下で使用することが重要です。安易に「楽になるから」といって、使用すると以下のような副作用で困ることがあります。

分類主な副作用発現のタイミング備考・解説
代謝系高血糖・糖尿病の悪化短期〜長期インスリン抵抗性上昇。糖尿病患者では特に注意。
体重増加・中心性肥満長期食欲増進・脂肪分布変化(ムーンフェイス・バッファローハンプ)
骨・筋肉系骨粗しょう症・骨折長期骨吸収促進、カルシウム排泄増加。ビタミンD・Ca補給を推奨。
筋萎縮(ステロイド筋症)長期下肢の筋力低下に注意。高齢者で問題化しやすい。
消化器系胃潰瘍・胃炎短期〜長期NSAIDsとの併用でリスク増。胃薬併用を考慮。
食欲増進短期一時的に摂食量が増加。
精神・神経系不眠・興奮・気分高揚短期服用初期に多い。夜服用は避ける。
抑うつ・情動不安定長期精神症状は用量依存的。
眼科系白内障長期特に中高年女性で多い。
緑内障長期眼圧上昇により視野障害のリスク。定期眼科受診が望ましい。
感染症易感染性(免疫抑制)短期〜長期ウイルス・真菌・細菌感染のリスク上昇。
内分泌系副腎抑制(離脱症候群)長期・中止時長期服用後の急な中止で倦怠感・低血圧など。漸減が必要。
皮膚系皮膚菲薄化・あざができやすい長期コラーゲン減少による。
循環器系高血圧長期ナトリウム・水貯留による。
浮腫長期下腿浮腫や顔面のむくみ。
免疫・代謝関連感染後の創傷治癒遅延長期手術前後は投与量の調整が必要。

膠原病など長期にステロイドを使用しなければいけない場合もあります。一部の喘息患者さんでは内服のステロイド治療を中止できない場合もありますが、多くの患者さんはそうではありません。喘息治療においてはステロイドの全身投与を行わずに管理していくことが非常に重要です。

ステロイドの全身投与を避けるために最近は「生物学的製剤」を用いることができます。高額な薬ですが、適切に使用すれば非常に効果があります。


生物学的製剤について

これまでの喘息治療は、主に吸入ステロイド薬(ICS)や気管支拡張薬(LABA)を使い、
「症状を抑える」「発作を防ぐ」ことを目的としてきました。
しかし、一部の患者さんではそれでも発作を繰り返したり、
長期間の経口ステロイド(OCS)治療が必要になることがあります。

近年、こうした「治療抵抗性の重症喘息」に対して、 新たな選択肢として登場したのが生物学的製剤(Biologics)です。

🧬 生物学的製剤とは?

生物学的製剤とは、体内の炎症を引き起こす「特定の分子」をピンポイントで抑える注射薬です。
従来の薬と違い、「気道の炎症の原因そのもの」を直接ターゲットにするのが特徴です。

喘息の多くは「Type2炎症」と呼ばれる免疫反応が関係しており、
この炎症の中心にある物質(IgE・IL-5・IL-4・IL-13・TSLPなど)をブロックすることで、
発作や炎症を根本的に抑えます。

💡 どんな人が対象になるの?

生物学的製剤は、中等症〜重症の喘息のうち、次のような方が対象になります。

  • 吸入ステロイドなどの標準治療でも発作を繰り返す
  • 経口ステロイド(プレドニゾロンなど)をしばしば使用している
  • FeNO(呼気NO)や血中好酸球が高い
  • アレルギー体質が強い(IgE高値、鼻炎・皮膚炎など合併)
  • 鼻茸(副鼻腔炎)やアトピー性皮膚炎を合併している

医師が血液検査や呼気NO検査で「炎症のタイプ(Type2炎症)」を確認し、どの製剤が適しているかを判断します。

日本で使用できる生物学的製剤は以下になります。

分類標的分子一般名(製品名)主な適応患者投与方法・間隔主な特徴・ポイント
抗IgE抗体IgEオマリズマブ(ゾレア®)・アトピー型喘息(IgE高値、通年性アレルゲン感作)
・中等症~重症でICS等で不十分
皮下注
2〜4週ごと(体重とIgE値で用量決定)
・世界初の喘息用生物学的製剤
・アレルギー性鼻炎にも保険適応あり
・重症花粉症にも使用可
抗IL-5抗体IL-5メポリズマブ(ヌーカラ®)・好酸球性喘息(血中好酸球≧150/µL)
・再発増悪を繰り返す例
皮下注
4週ごと
・増悪抑制効果が強い
・鼻茸合併例にも有効(好酸球性副鼻腔炎にも適応)
抗IL-5受容体α抗体IL-5Rαベンラリズマブ(ファセンラ®)・好酸球性喘息(同上)皮下注
初回3回は4週ごと、その後8週ごと
・好酸球を“ほぼ完全に除去”する作用
・注射間隔が長く通院負担が少ない
抗IL-4/IL-13受容体α抗体IL-4Rα(IL-4・IL-13経路)デュピルマブ(デュピクセント®)・好酸球性または2型炎症の強い喘息
・FeNO高値(≧25ppb)
・ステロイド依存例にも
皮下注
初回600mg、以降300mgを2週ごと
・2型炎症全体を抑制
・アトピー性皮膚炎・鼻茸にも保険適応
・FeNO高値例に特に有効
抗TSLP抗体TSLP(上皮サイトカイン)テゼペルマブ(テゼスピア®)・重症喘息全般(好酸球に依存しない喘息も)皮下注
4週ごと
・唯一の「好酸球非依存性」治療
・幅広い患者に適応可(FeNO・IgE低値でも)

喘息の状態・治療効果の確認

高血圧や糖尿病と同様、予防的・先手管理が必要です。重症度とコントロール状態に応じ、1〜6か月毎の定期受診をお願いしております。

コントロール評価 — 過去4週間の症状をAsthma Control Testを用いて確認させて頂きます。

吸入手技確認 — コントロールがうまくいかない患者さんの中に吸入薬が適切に吸えていない患者さんがおられます。面倒かもしれませんが、吸入薬をご持参いただき、吸入のやり方を見せていただくことがあります。うまく吸えていなければ副作用だけしか出ない可能性が有るため、しっかり確認させて頂きます。

肺機能 — 原則スパイロメトリーで確認します。呼気NO検査も行い状態を確認していきます。

⚙️ ステップアップ/ステップダウン治療

喘息の治療は「段階的(ステップ式)」に調整します。

症状の状態 治療の考え方
コントロール不十分 ステップアップ(薬を増やす・追加)
良好に安定(3〜6か月) ステップダウン(薬を減らす)

🔹 ステップアップ時
ICSの増量 → ICS/LABA配合薬へ → LAMAやLTRA追加 → 生物学的製剤へ

🔹 ステップダウン時
生物学的製剤減量→中止→吸入薬の減量 → 最低限のコントローラー維持

症状+FeNO+肺機能+発作の程度・回数などを組み合わせ判断します。

ただし、生物学的製剤の中止について、十分なコンセンサスはない状態です。
個人的には半年程度は添付文書通りの使用方法を行い、喘息の症状がゼロが続いているのであれば、投与期間を倍に伸ばしていきます。それでも問題なければ1年程度で中止を考慮します。

まとめ

喘息治療は、いまや「発作を止める」時代から「炎症を抑えて発作を起こさない」時代へと変わりました。

吸入ステロイド薬(ICS)を中心に、
呼気NO(FeNO)による炎症評価、
症状に応じたAIR・MART療法(日本では未承認)
さらに重症例には生物学的製剤(抗IgE・抗IL-5・抗IL-4Rαなど)と、
治療の選択肢は大きく広がっています。

重要なのは、自分の喘息のタイプ(炎症の型)を正しく把握し、過不足のない治療を受けることです。
薬を「減らす」「やめる」ことも、しっかりコントロールされたうえで計画的に行えば可能です。

当院では、FeNO測定・肺機能検査・血液検査を組み合わせ、
「今の炎症の状態」を見える化したうえで、
一人ひとりに最適な吸入薬・生物学的製剤の選択やステップダウンをサポートしています。

🔸 喘息は一生つきあう病気ではなく、「うまくつきあえる病気」です。
定期的な診察と正しい治療で、発作のない穏やかな日常を取り戻しましょう。

🌿 京都市伏見区 醍醐合場町

緑萌会 辻医院|呼吸器内科・内科

呼吸のこと、咳のこと、吸入薬のこと。
どんな小さな疑問でもお気軽にご相談ください。
最新の診断・治療指針に基づき、患者さん一人ひとりに合わせた喘息管理を行っています。

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