• 12月 24, 2024

間質性肺炎

間質性肺炎

息苦しさ、乾いた咳、階段の上り下りで息切れ… これらの症状、もしかしたら間質性肺炎かもしれません。

「間質性肺炎」という言葉を聞いたことはありますか?芸能人の方で、この病気でお亡くなりになった方もいらっしゃいますので皆さんにも認知されるようになったかもしれません。

肺の奥深くで静かに進行する病気で、初期症状は風邪と見分けがつきにくく、気づかないうちに進行してしまうことも少なくありません。2023年の厚生労働省の調査では、間質性肺炎の患者数は増加傾向にあり、早期発見、早期治療の重要性が叫ばれています。

この記事では、間質性肺炎の定義、種類、症状、診断方法、そして最新の治療法までを詳しく解説します。特発性肺線維症(IPF)や非特異性間質性肺炎(NSIP)など、様々な種類があり、それぞれに特徴的な症状や治療法が存在します。

日常生活への影響や、その対策についても触れ、患者さん一人ひとりの状況に合わせた、最適な治療方針の決定について解説します。 間質性肺炎は完治が難しい病気ですが、適切な治療と生活管理によって、病気の進行を遅らせ、日常生活の質を維持することは可能です。

少しでも気になる症状があれば、この記事を参考に、医療機関への受診をご検討ください。あなた自身の健康を守るために、今、知っておくべき知識がここにあります。

間質性肺炎の定義と種類

「間質性肺炎」と診断されると、これからどうなるのかと不安になると思います。肺の奥深くで静かに進行するこの病気は、初期には自覚症状がほとんどない場合もあります。しかし、適切な治療と生活管理によって病気の進行を遅らせ、日常生活の質を維持することは可能です。一緒に間質性肺炎について理解を深めていきましょう。

間質性肺炎とは何か

間質性肺炎とは、肺の奥深くにある「肺胞」と、その周りの組織(間質)に炎症が起こり、線維化という硬くなる変化が進む病気です。

肺胞は、酸素と二酸化炭素の交換を行う場所で、非常に薄い壁でできています。例えるなら、風船のように膨らんだり縮んだりして呼吸を助けています。

しかし間質性肺炎になると、この肺胞の壁が炎症によって厚く硬くなってしまいます。酸素をうまく取り込めなくなり、息苦しさを感じてしまうのです。

私は、患者さんによく「ぶどう」と「レーズン」の例えで説明します。新鮮なぶどうは、皮が薄くてみずみずしいですよね。これが健康な肺です。しかし、ぶどうが乾燥してレーズンになると、皮が厚く、硬くなります。これが間質性肺炎で線維化した肺の状態です。

主な種類とそれぞれの特徴

間質性肺炎には様々な種類があり、それぞれ原因や症状、経過などが異なります。主な種類をいくつかご紹介します。これ以外にも原因は多岐にわたります。

種類特徴
特発性間質性肺炎原因不明の間質性肺炎
過敏性肺炎環境要因への曝露がきっかけで発症
膠原病関連間質性肺炎膠原病という自己免疫疾患に伴って発症
医原性間質性肺疾患放射線治療や薬剤によるもの

このように、間質性肺炎は様々な原因で発症するため、それぞれの患者さんに合った治療法を選択することが重要です。

間質性肺炎の原因となる病気

間質性肺炎は、原因が特定できるものと特定できないものがあります。原因不明のものを特発性間質性肺炎と呼び、代表的なものに特発性肺線維症があります。その他にも、様々な病気が原因となって間質性肺炎を発症することがあります。

  • 膠原病: 関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病は、免疫システムの異常によって自分の体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患です。この攻撃が肺に及ぶと、間質性肺炎を引き起こすことがあります。例えば、関節リウマチで長年治療を受けている患者さんが、咳や息切れを訴え、検査の結果間質性肺炎と診断されるケースをしばしば経験します。
  • 薬剤: 一部の抗がん剤や抗生物質、抗不整脈薬などは、副作用として間質性肺炎を引き起こす可能性があります。服用している薬によって息苦しさや咳などの症状が出た場合は、すぐに医師に相談することが大切です。私は、患者さんに薬を処方する際、これらの副作用についても丁寧に説明し、異変を感じた場合はすぐに連絡するよう伝えています。
  • 環境要因: アスベストやベリリウム、カビ、鳥の糞などに長期間曝露されることで、過敏性肺炎という間質性肺炎を発症することがあります。これらの物質は、主に職業上の曝露が原因となりますが、趣味で鳥を飼育している場合などにも注意が必要です。例えば、長年建設現場で働いていた方が、アスベストによる影響で間質性肺炎を発症するケースも少なくありません。

これらの他にも、様々な要因が間質性肺炎の発症に関与していると考えられています。原因を特定するために、医師は詳細な問診や様々な検査を行います。

間質性肺炎の症状と診断方法

間質性肺炎は、初期症状が分かりにくいため、発見が遅れてしまうケースが多く見られます。早期発見・早期治療のためには、間質性肺炎の症状を正しく理解し、少しでも異変を感じたら医療機関を受診することが非常に大切です。

初期症状と進行症状

健康な肺は、酸素をスムーズに取り込むことができます。しかし、間質性肺炎になると、肺が線維化して硬くなり、酸素を十分に取り込めなくなります。その結果、息切れや咳といった症状が現れます。

初期症状は風邪と非常によく似ており、見逃しやすいです。代表的な症状として、空咳と息切れが挙げられます。

  • 空咳: 痰を伴わない咳です。風邪でもないのに咳が続く場合は、間質性肺炎の可能性も考慮する必要があります。
  • 息切れ: 階段の上り下りや少し歩いただけでも息切れがするようになります。最初は「年のせいかな」「最近運動不足だからかな」と軽く考えてしまいがちです。しかし、次第に息切れがひどくなり、日常生活にも支障をきたすようになります。例えば、以前は楽に歩けていた距離が歩けなくなったり、家事をするだけで息苦しくなったりするケースもあります。

これらの初期症状は非常に自覚しにくいため、多くの人が「大したことない」と思い込み、医療機関の受診を先延ばしにしてしまう傾向があります。しかし、間質性肺炎は早期発見・早期治療が非常に重要です。少しでも気になる症状があれば、早めに専門医に相談することをお勧めします。

病気が進行すると、咳や息切れだけでなく、下記のような症状が現れることもあります。

  • 呼吸困難: 安静にしていても息苦しさを感じ、息を吸うのも吐くのも苦しくなります。会話をすることさえ困難になる場合もあります。私は、呼吸困難に苦しむ患者さんを何人も診てきました。酸素吸入が必要となるケースも少なくありません。
  • チアノーゼ: 爪や唇の色が紫色になることです。これは、血液中の酸素が不足しているサインです。チアノーゼが現れると、間質性肺炎はかなり進行していると考えられます。
  • ばち状指: 指の先端が太鼓のバチのように丸く膨らむ症状です。ばち状指も、間質性肺炎の進行を示すサインの一つです。

初期症状を見逃すと、病気が進行し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。早期発見のためには、定期的な健康診断の受診も重要です。

診断方法:胸部レントゲンから肺生検まで

間質性肺炎の診断には、様々な検査方法を組み合わせて行います。まるで探偵が事件を解決するように、医師は様々な情報を集めて診断を下します。

  • 聴診:背中の下の方でぱちぱちという音が聞こえることがあります。これをFine cracklesといい、線維化を示す重要な所見です。
  • 胸部レントゲン: 肺の状態を大まかに確認するための基本的な検査です。しかし、初期の間質性肺炎では異常所見が見られない場合もあります。私が経験した症例でも、初期の胸部レントゲン写真では異常がなく、後にCT検査で間質性肺炎と診断されたケースがありました。
  • 胸部CT検査: レントゲンよりも詳細に肺の状態を調べることができます。間質性肺炎に特徴的な陰影を見つけるのに役立ちます。例えば、すりガラス状陰影や蜂窩肺と呼ばれる陰影が見られることがあります。当院では施行できないため基幹病院にお願いします。
  • 肺機能検査: 肺活量や一秒率(一秒間にどれくらいの空気を吐き出せるか)を測定します。間質性肺炎では、これらの線維化を反映し肺活量が低下いたします。
  • 血液検査: 炎症反応や膠原病などの関連疾患の有無を調べます。間質性肺炎の中には、膠原病に伴って発症するものもあるため、重要な検査です。
  • 気管支鏡検査: 細い管を口や鼻から肺の中に入れ、肺の中を洗浄したり組織の一部を採取する検査です。採取した組織を顕微鏡で観察することで、より正確な診断に繋げることができます。
  • 肺生検: 肺組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。確定診断のために必要な場合があります。外科的に組織を採取する方法が一般的ですが、国内でも少ないですがクライオ生検を行っている施設もあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、最終的な診断を下します。

鑑別診断が必要な類似疾患

間質性肺炎は、他の肺疾患と症状が似ているため、鑑別診断が重要です。医師は、様々な情報を総合的に判断して、正しい診断を導き出します。

間質性肺炎と似た症状を示す疾患には、以下のようなものがあります。

  • 慢性閉塞性肺疾患 (COPD): 喫煙などが原因で気管支が狭くなり、息切れや咳などの症状が現れる病気です。
  • 肺結核: 結核菌によって引き起こされる感染症です。咳や痰、発熱などの症状が現れます。
  • 気管支喘息: アレルギーなどが原因で気管支が狭くなり、発作的に息苦しくなる病気です。
  • 心不全: 心臓のポンプ機能が低下し、息切れやむくみなどの症状が現れる病気です。
  • 肺がん: 肺に悪性腫瘍ができる病気です。咳や血痰、胸痛などの症状が現れることがあります。

これらの疾患と間質性肺炎を区別するためには、画像検査、肺機能検査、血液検査など、様々な検査結果を総合的に判断する必要があります。また、患者さんの病歴、喫煙歴、職業歴なども重要な情報となります。

例えば、長年喫煙している患者さんが咳や息切れを訴えている場合、COPDの可能性をまず考えますが、間質性肺炎の可能性も否定できません。このような場合は、胸部CT検査や肺機能検査などを実施し、鑑別診断を行います。

治療法と生活への影響

間質性肺炎と診断された後、治療法やこれからの生活について、様々な不安が頭をよぎると思います。ご自身の状況を想像しながら、一緒に治療法や生活への影響について考えていきましょう。

主な治療法:薬物療法

間質性肺炎の治療の中心は、薬物療法です。まるで、車の両輪のように、この2つが治療を支えています。

薬物療法では、主にステロイド薬や免疫抑制薬を使用します。ステロイド薬は、炎症を抑える強力な薬です。炎症で熱くなった肺を、氷で冷やすように鎮めてくれます。免疫抑制薬は、過剰に働いている免疫システムのブレーキ役となり、肺への攻撃を和らげます。また抗線維化薬を使用することもできますが、これらは大きな病院の先生方のご判断で使用します。

対症療法として酸素療法を用いることがあります。息切れなどの症状を軽減するために用いられます。まるで、高い山に登った時に酸素ボンベを使うように、肺に酸素を供給し、呼吸を楽にします。酸素療法が必要かどうかは、患者さんの状態によって異なります。

間質性肺炎は、日常生活に様々な影響を及ぼします。息切れがすると、以前は楽に行えていた家事や外出が困難になることもあります。咳や痰も、日常生活の質を低下させる要因となります。酸素療法などを用いることで少しでも日常生活に支障がないように管理していきます。

日常生活への影響を最小限に抑え、より快適に過ごすためには、以下の対策が有効です。

  • 運動療法: 呼吸機能を維持・改善するために、医師や理学療法士の指導のもと、無理のない範囲で運動を行います。例えば、ウォーキングや呼吸体操などが有効です。
  • 栄養管理: バランスの良い食事を摂り、体力を維持することは、病気と闘う上で非常に大切です。特に、たんぱく質やビタミンを十分に摂取するように心がけましょう。
  • 感染予防: 間質性肺炎の患者さんは、感染症にかかりやすい状態にあります。風邪やインフルエンザなどの感染症を予防するために、手洗いやうがい、マスクの着用を徹底しましょう。人混みを避けることも重要です。
  • 禁煙: 喫煙は肺に大きな負担をかけ、病状を悪化させる可能性があります。現在喫煙している方は、必ず禁煙しましょう。禁煙が難しい場合は、医師や禁煙外来に相談してみましょう。

間質性肺炎の予後と生存率について

間質性肺炎の予後と生存率は、病気の種類や進行度、年齢、合併症の有無など、様々な要因によって大きく異なります。特発性肺線維症のように進行性のタイプもあれば、過敏性肺炎のように原因物質を取り除くことで改善が期待できるタイプもあります。

予後については、担当の先生から詳しく説明を受けるようにしましょう。ご自身の病状や今後の見通しを理解することは、不安を軽減し、治療に前向きに取り組む上で非常に重要です。

急性増悪という急激に肺が悪くなる状態があります。きっかけは様々ですが、冬に風邪をひいて悪化する方が少なくありません。インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなどの予防接種はしっかりと行いましょう。

まとめ

間質性肺炎は、肺の組織に炎症と線維化が起こる病気で、初期症状は風邪と似ており見過ごされがちです。空咳や息切れといった症状が現れたら、早めに医療機関を受診することが大切です。診断には胸部レントゲン、CT検査、肺機能検査など複数の検査が用いられ、原因の特定も重要です。治療は、炎症を抑える薬物療法や抗線維化薬が中心となります。日常生活では、運動療法や栄養管理、感染予防、禁煙などに気を配り、医師と相談しながら、病気の進行を遅らせ、可能な限り快適な生活を送ることを目指しましょう。間質性肺炎は完治が難しい病気ですが、適切な治療と生活習慣によって、症状のコントロールとQOLの維持は可能です。 当院だけで診断治療が完結できる病気ではないため基幹病院の先生方との連携が重要です。病気の早期診断にお役立てできるかもしれません。

息切れ、空咳などあれば一度ご相談下さい。

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