• 5月 4, 2025
  • 5月 6, 2025

中高年女性に増加中!非結核性抗酸菌症とは?症状・診断・治療のすべてを専門医が解説

長引く咳や痰、血痰など体重減少などがある場合は非結核性抗酸菌症の可能性があります。近年日本でも増加傾向にある非結核性抗酸菌症の診断方法や治療について詳しくまとめました。

非結核性抗酸菌(NTM)症とは?

非結核性抗酸菌(NTM:Nontuberculous Mycobacteria)は、結核菌およびハンセン病菌以外の抗酸菌属の菌種を指します。NTMは環境中に広く存在し、健康な人の皮膚や粘膜、分泌物中に存在していても、必ずしも病気を引き起こすわけではありません。近年は、このNTMによる慢性呼吸器感染症が増加傾向であり、特に中高年女性に多く見られます。

どんな菌がいる?

人に感染する菌だけでも30種類程度知られています。一部をご紹介させていただきます。

分類菌種
非発色菌群(Nonchromogens)MAC(M. avium, M. intracellulare, M. chimaera など)
M. terrae complex
M. ulcerans
M. xenopi
M. simiae complex
M. malmoense
M. szulgai
M. asiaticum
M. haemophilum
光発色菌群(Photochromogens)M. kansasii complex
M. marinum
暗発色菌群(Scotochromogens)M. gordonae
M. scrofulaceum
迅速増殖菌群(Rapidly growing mycobacteria)M. abscessus group(M. abscessus, M. bolletii, M. massiliense)
M. fortuitum complex(M. fortuitum, M. peregrinum, M. porcinum)
M. chelonae
M. smegmatis
M. mucogenicum

代表的な菌と特徴を表にお示しします。

菌種名特徴
Mycobacterium avium complex (MAC)世界的に最多。日本や韓国でも急増中。水・土壌・シャワーなどが感染源。免疫不全者では播種性感染もあり得る
M. kansasii米国中南部や都市部の水道水が主な感染源とされる。HIV患者では感染率が高い
M. abscessus日本や韓国で増加中。高い耐性をもち治療困難。病院の水回り・器具などからの感染が問題に
M. fortuitum美容施術や手術後感染が報告されている。比較的治療しやすい場合もある
M. chelonae美容処置やカテーテルなど医療行為後の感染。免疫抑制状態の患者で重症化することもある
M. marinum熱帯魚水槽や水場での外傷が原因。水仕事に従事する人に多い

日本では、Mycobacterium avium complex(MAC)という菌群による感染が圧倒的に多く、NTM肺疾患の約85%を占めています。西日本のほうがM.intracellulareの頻度が高いと報告されています。

NTMはどこにいるの?どうやって感染する?

環境起源

どんな場所に菌がいるかを知ることは感染の予防の面からは非常に重要です。どんなところに菌がいるのか、お示しします。
NTMは自然界のあらゆる場所に存在しますが土壌や水回りに多いことが知られています。

  • 表層水や水道水
  • 土壌
  • 家畜や野生動物

NTMの中でも環境分布には違いがあります

  • MAC:シャワーヘッドのバイオフィルムにはNTMが高濃度で検出されることが示されており、人へのMAC感染の潜在的な感染源としてシャワーが関与している可能性が報告されています。エアロゾル化したMACを吸い込むことで肺にアレルギー反応を示す「Hot tub Lung」という病気があります。せっかくの気持ちのいいジャグジーなどが原因となります。
  • M. abscessus:MACと同様に、M. abscessusも自然界に広く存在する環境微生物です。これらは、土壌、ほこり、水、陸生・水生動物、病院環境(例:水道水)、汚染された試薬や医薬品から分離されています。
  • M. kansasii:他のNTMと異なり、M. kansasiiは土壌や自然水からは分離されておらず、水道水から分離されています。日本でもM.kansasiiの検出される地域には偏りがあり工業地域の近くが多いとされています。

感染経路

どうやって感染するのか知ることも非常に重要です。NTMの一般的な感染経路をお示しします。

  • 吸入:最も一般的な感染経路になります。エアロゾル化されたNTMを含む水や土壌が主な感染源となります。
  • 経口摂取:特に小児のリンパ節炎や、HIV患者の播種性MACに関与するとされます。
  • 直接接種:外傷や医療処置を通じて皮膚や軟部組織にNTMが侵入し、局所感染または播種性感染を引き起こします。

人から人への感染は?

一般には人から人への感染は起こらないとされますが、ごくまれに可能性が指摘された事例もあります。とくに、嚢胞性線維症患者さんでの同一株の分離や、術後感染例での医療従事者との関連が報告されています。

どんな人が感染しやすい??どんな症状が出ますか?

この疾患は、感染してもすぐに症状が出るわけではなく、慢性的に進行するため、初期には気付かれにくいのが特徴です。症状が出たときにはすでに肺の病変が広がっていることもあります。そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
どのような方に感染が起きやすいのか、感染した場合、どのような症状が出るのかをご説明しますね。

主なリスク因子を以下の表にまとめてみます

リスク因子説明
高齢(60歳以上)・特に女性加齢に伴う免疫機能の低下や体質的な要因が関与 エストロゲンなどのホルモンの関与?
慢性呼吸器疾患COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支拡張症などの既往がある場合
低体重(BMI < 18.5)栄養状態の低下や慢性疾患との関連が指摘される
胸郭の変形漏斗胸など、構造的異常があると気道クリアランスが低下しやすい
免疫抑制状態ステロイド・免疫抑制薬の使用、HIV感染などにより感染抵抗力が低下

これらのリスクを持つ人は、定期的な呼吸器の検査を受けることが推奨されます。

感染した場合の症状

特に、咳が数週間以上続く方や、黄色い膿性の痰が増えているという場合には、NTM症を含めた感染症の可能性も考慮する必要があります。

どうやって診断しますか??

症状は他の慢性的な肺の病気と非常に似ており区別が難しいです。症状だけで診断は難しく、他の検査と組み合わせて診断することになります。それが画像検査と喀痰検査、血液検査になります。NTM以外の病気がないかどうかを調べるということも非常に重要です。

1:画像検査

胸部X線写真や胸部CT検査を行います。特にCT検査は、病気を絞り込んでいくのに非常な検査となります。CTで認める所見について、代表的なものをお示しします。

NTM肺疾患のCT画像の基本パターン

NTM症のCT画像では、以下の2つの主要なパターンがよく認められます:

パターン特徴対応する臨床像
結節・気管支拡張型小葉中心性の結節、木の芽様陰影、気管支拡張(特に右中葉・舌区)中高年女性に多い。慢性経過。
空洞型(線維空洞型)上葉優位の空洞、線維化、無気肺、気管支拡張喫煙歴のある高齢男性に多い。進行速い。

これは主にMAC症の画像を分類する場合に用いられます。また菌種により、画像も違いがあります(いつも明確に分類できるわけではありませんが・・・)

菌種CT画像の特徴
Mycobacterium avium complex(MAC)小葉中心性結節、木の芽様陰影、気管支拡張(右中葉・舌区)、時に空洞。
Mycobacterium kansasii上葉に空洞形成が主体、壁は比較的薄く平滑。結核と類似。
Mycobacterium abscessusMACと類似だが、結節や気管支拡張がより目立つ(上葉にも異常が多い)。

2:細菌学的検査

NTM症については除外診断が重要です。気管支拡張を認める場合、NTM以外の細菌の定着があることがあるため、確定診断には細菌学医的検査が欠かせません。

以下の表にまとめてみます

区分内容
A. 臨床的基準① 胸部CT(HRCTが望ましい)で以下の所見(複数可):結節性陰影、小結節性陰影、分枝状陰影の散布、均等性陰影、空洞性陰影、気管支または細気管支拡張陰影
② 他の疾患(結核、肺がんなど)を除外できること
B. 細菌学的基準① 異なる2回以上の喀痰検体での培養陽性
② 1回以上の気管支洗浄液または肺胞洗浄液での培養陽性
③ 病理組織検査(経気管支肺生検または肺生検)で抗酸菌症に合致する所見+組織または喀痰で1回の培養陽性
診断確定臨床的基準(A)と細菌学的基準(B)の両方を満たすこと

また、MAC抗体検査(抗GPL-core IgA抗体)も補助診断として有用です。キャピリア®MAC 抗体ELISAとして測定が可能です。日本の先生の研究から臨床応用されたもので、大変誇らしいですね。特に、検出困難な症例や単一培養陽性例において、血中抗体の上昇が診断の一助となります。

GPLは、結核菌や M. kansasii には存在しないが、M. abscessus などの迅速発育菌には存在するため注意が必要ではありますが、なかなか痰が出ない患者さんも少なくはないため、非常に有用な検査だと個人的には感じております。

日本ではこの検査の結果を考慮し、国際基準とは違う暫定的基準が2024年に発表されています。

区分内容
肺MAC症 初回診断時臨床的基準を満たし、喀痰検体1回での培養陽性かつ抗GPL-core IgA抗体陽性
胃液培養陽性時臨床的基準を満たし、胃液培養陽性+喀痰検体でも1回以上の培養陽性がある場合

治療方針の決定

治療が必要なケースと経過観察で良いケース

NTM肺疾患は、必ずしもすべての症例で治療を必要とするわけではありません。抗菌薬治療は長期にわたり副作用も多いため、患者さんの状態や病型に応じた対応が求められます。

治療が推奨される肺MAC症の症例

以下のような所見がある場合は、治療開始が推奨されます。

空洞病変がある
 → 肺組織の破壊が強く、進行性のリスクが高い。

症状が強い
 → 咳、痰、倦怠感、発熱、体重減少など、日常生活に支障をきたす場合。

画像で病変が悪化傾向にある
 → 経過観察中に画像で進行が確認される場合は早期治療が望まれる。

経過観察が適切と考えられる肺MAC症の症例

以下のような場合は、ただちに治療を開始せず、経過観察が選択されることがあります。

他の持病の治療が優先されるケース
 → たとえば心不全や進行がんなど、より緊急性の高い疾患がある場合は、肺MAC症の治療を後回しにすることもあります。

ご高齢の方:上記と重なりますが、副作用のリスクが高まります。

軽度な気管支拡張型で無症状、または症状が軽い
 → 身体への負担が少なく、進行のリスクも低いため定期的なフォローをお勧めすることがあります。

経過観察では、3〜6か月ごとに画像検査と喀痰培養を行い、進行の有無を判断します。

治療について

標準的な治療法:3剤併用療法

MAC肺疾患に対する標準治療は、以下の3剤を用いた併用療法です。

クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン

リファンピン

エタンブトール

この治療は週3回または毎日の投与があり、病型(結節性気管支拡張型か、空洞病変型か)や重症度に応じて選択されます。治療期間は、喀痰培養が陰性化してから12か月以上とされています。合計すると、治療期間は1年半〜2年程度に及ぶこともあります。

重症例への追加治療

アミカシン(点滴または吸入):特に空洞病変や薬剤耐性例で有用

外科的切除:限局性の病変で薬物治療が無効な場合に考慮される

治療に伴う副作用と注意点

治療薬は長期使用となるため、以下のような副作用に注意が必要です。

・視力障害(エタンブトール)

・肝機能障害(リファンピンが多いが多剤でも)

・難聴・腎機能障害(アミカシン)

・消化器症状(マクロライド系が多いですが多剤でも)

定期的な眼科受診を勧められることがありますが、エタンブトールの副作用の確認となります。頻度が高い副作用ではありませんが、めんどくさがらずに受診してもらえるとありがたく思います。定期的な採血検査などを行い、副作用があれば速やかに対応する必要があります。

*大事な注意点:肺MAC症においてマクロライド単剤での治療は絶対に避けるべきです。
クラリスロマイシンやアジスロマイシンの単剤投与は耐性菌の選択を引き起こす可能性が高く、治療困難例となる重大なリスクを伴います。

治療効果の判断は、喀痰培養検査を基に行い、4週以上間隔をあけた喀痰培養で3回連続して培養陰性が確認された時点で排菌陰性化と判断します。ただ、痰がでないという場合も多く、すべての方でこれが確認できるわけではありません。出ない場合は推定消失として扱うこともあります。

再発と再感染のリスクについて

肺非結核性抗酸菌症(NTM症)は、たとえ治療が成功しても再発や再感染のリスクがあります。
NTM菌は水や土壌などの自然環境に広く存在しており、生活の中で再び曝露されることが避けられないためです。

再発のリスク因子

以下のような条件があると、再発のリスクが高まるとされています

  • 病変の広がりが大きい
  • 空洞病変の残存
  • 低栄養状態(低アルブミン、低BMIなど)
  • 喫煙歴や慢性肺疾患(COPD・気管支拡張症など)の併存

再発予防のポイント

再発・再感染を防ぐためには、以下のような生活習慣と医療的管理の継続が重要です

日常環境の衛生管理
 → 加湿器の水の交換・洗浄、シャワーヘッドや浴室の清掃、水回りのカビ対策、ガーニングなどの際にはマスク着用など

定期的なフォローアップ
 → 半年ごとの喀痰培養胸部CTで早期発見

栄養状態の改善
 → 栄養指導や体重管理を通じて、免疫力を維持

おわりに

NTM肺疾患は決して稀な病気ではなく、日本では年々患者数が増加しています。早期診断と適切な治療により、症状の改善や進行の抑制が期待できます。また、治療中は医師との密な連携が不可欠です。

当院では、レントゲン検査、喀痰培養、抗体検査などを活用し、診断から治療、フォローアップまで対応しております。重症の方、治療反応性の悪い方は基幹病院との連携が必要となります。近隣基幹病院との連携もさせていただきますl。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

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