• 5月 23, 2025

子どもの病気と思っていませんか?実は増えている“大人の気管支喘息”

〜咳・息切れ・胸の違和感、それは喘息かもしれません〜

「咳が何週間も続く」「夜中に胸が苦しくなる」「運動するとゼーゼーする」――そんな症状がある方、それはもしかすると“喘息”かもしれません。

喘息というと「子どもの病気」という印象をお持ちの方も多いかもしれませんが、実は成人になってから発症するケースも少なくありません。特に近年は、環境因子や生活習慣の影響で大人の喘息が増えてきています。

本記事では、最新の医学的知見に基づき、「成人・思春期の喘息診断」について詳しく解説します。


■ 喘息とは?

喘息(ぜんそく)は、気道(気管支)に慢性的な炎症が起こり、さまざまな刺激に対して過敏になり、気道が狭くなる病気です。

喘息の主な特徴は次の4つ:

  • 喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)
  • 慢性または間欠的な咳
  • 息苦しさ(呼吸困難)
  • 胸の圧迫感

これらの症状は、以下のような**特定の誘因**によって出現または悪化し、吸入薬などの治療で改善します。

  • 運動
  • アレルゲン(ダニ、花粉、動物、カビなど)
  • ウイルス感染(風邪)
  • 冷たい空気
  • 刺激臭(タバコ、香水、洗剤 など)

症状は時間的に変動しやすく、症状のない時期と強く出る時期を繰り返します。

症状のエピソード性
喘息の症状は数時間から数日にわたって出現し、誘因から離れたり、自然に消失することもあります。多くの患者は症状のない期間を長く過ごします。また、症状が夜間に悪化することも多く、30~70%の喘息患者さんが少なくとも月1回は夜間の症状を報告しています。中には夜間症状が特に苦しいと感じる患者もいれば、あまり気にせず、こちらから質問しなければ報告しないこともあります。


■ 大人になってから喘息になる?

はい、なります。実際、成人喘息の約半数は大人になってから発症しているという報告もあります。子ども時代に喘息だった人が、しばらく落ち着いていたのちに再発するパターンもあります。

以下に当てはまる方は「大人の喘息」を疑うべきかもしれません:

  • 子どもの頃に「喘息」と言われていた
  • 家族に喘息やアレルギー体質の人がいる(アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎や結膜炎)
  • 咳が1ヶ月以上続いている
  • 夜間〜明け方に咳や息苦しさで目が覚める
  • 運動や寒さ、ペット、ほこりで症状が悪化する

喘息の症状は他の疾患でも起こります。以下の症状がある場合、喘息ではない可能性が高まります。
・気管支拡張薬(適切な吸入方法であっても)で効果がなかった

・経口ステロイド治療で明らかな改善がなかった

・胸痛、失神、動悸など心血管症状を伴う(心疾患の可能性)

・長年の喫煙歴(20パック年以上:COPDの可能性 ただし喘息との合併はあり得る)


■ 喘息の診断には何が必要?

喘息の診断は「症状」だけでは不十分です。なぜなら、咳や息切れ、喘鳴などの症状は他の多くの病気でも起こるからです。

正確な診断には以下のような評価が必要です:

🔹 肺機能検査

最も重要な検査です。以下の3つを確認します:

  • 気流閉塞の有無(FEV1/FVCの低下)
  • 気管支拡張薬(吸入薬)での可逆性
  • 気道の過敏性(刺激に対してどれだけ反応するか)

気道の狭さが薬で改善するかを見ることで、「喘息かどうか」を判断します。

🔹 気道過敏性試験(メサコリンやマンニトール吸入)

スパイロメトリーが正常でも、喘息の可能性がある場合に行います。吸入刺激による反応性を評価します。できる施設はかなり限られます。

🔹 ピークフロー測定(家庭での呼吸測定)

呼気の勢いを毎日記録し、日内・日間での変動を調べます。20%以上の変動があれば、喘息の可能性が高まります。

🔹 呼気NO(FENO)測定

呼気中の一酸化窒素濃度を測定し、気道の炎症を数値化します。好酸球性炎症に関連し、喘息と診断する手がかりになります。

1)日本人の成人健常者における FeNO 正常値
18 歳以上の日本人の健常者 240 名 (男性 131 名、女性 109 名 )を対象に測定された FeNO の正常上限値は 36.8ppb であった。
2)日本人の成人喘息患者の補助診断における FeNO カットオフ値
健常者 224 名と新患で吸入ステロイド薬を未使用の喘息患者 142 名を対象とした、健常者 と喘息患者 を鑑別する FeNO 値 として、22ppb が最 も感度(91%)と特異度(84%)に優れたカットオフ値であった。

日本人では37ppbを超えると喘息と診断できると考えますが、気管支炎などの合併の場合は上昇しますし、喫煙すると低下します。22未満であっても喘息ではないと言い切れないです。喘息らしい症状がありNOが高値の場合、喘息と考えますが、やはりほかの疾患がないことを確認することが非常に重要と考えます。

当院では簡便さから肺機能検査と呼気NO検査を行っております。
また、肺炎や腫瘍などの除外のために画像検査(X線検査)は必須となります。


■ 他の病気との違いは?

喘息に似た症状を持つ病気は多く、誤診されやすいため注意が必要です。

疾患名主な違い
COPD喫煙歴あり、可逆性が乏しい、年齢高め
GERD咳・胸やけ、吸入薬で改善しない
副鼻腔炎後鼻漏、顔面痛などを伴う

※特に中高年の初発喘息では、COPDや心不全、腫瘍などの鑑別が不可欠です。

喘息の特徴の多くは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)とも重複します。例えば、長年の喫煙歴(20パック年以上)を有する中高年で、持続的な運動制限と非可逆的気流閉塞が見られる場合、COPDと診断されることが明らかです。一方で、COPDの患者が発作的な症状を呈し、気流制限に可逆性を示す場合には、喘息とCOPDの鑑別が困難となります。このような症例では「喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)」と呼ばれ、診断および治療の調整が必要となる場合があります。


■ 喘息を悪化させる要因にも注意

以下の状態があると、喘息はコントロールしにくくなります:

  • アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、特に好酸球性副鼻腔炎(ECRS)
  • 肥満(女性)
  • 胃食道逆流症(GERD)
  • 喫煙
  • 精神的ストレス、不眠

特に好酸球性副鼻腔炎については、喘息の合併症として非常に重要であることが近年報告されております。耳鼻咽喉科の先生との連携が非常に重要です。

また、医療アクセスや住宅環境、社会的な要因も喘息の悪化に影響を与えることがあります。米国では、経済的格差や人種格差により喘息の罹患率や重症度に差があることが報告されています。



■ まとめ

喘息は、正しく診断し、適切に治療を行えば日常生活を問題なく送れる疾患です。

  • 長引く咳や息苦しさは放置せず、呼吸器科を受診しましょう
  • 呼吸機能検査やFENO、ピークフローを用いて正確に診断することが重要です
  • 他の病気との見極めも含めて、専門医の判断がカギになります

「昔喘息だったけど治ったと思っていた」「風邪が長引いているだけ」と思っている方も、ぜひご相談ください。

まずは喘息の診断について解説してみました。喘息の治療については別の記事にしたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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