• 9月 28, 2026
  • 9月 29, 2026

長引く咳・痰は「気管支拡張症」かも?症状・診断・治療と2026年承認の新薬ブレンソカチブを呼吸器専門医が解説

「何か月も咳や痰が続いている」
「風邪をひくと、いつも咳だけが長引く」
「黄色や緑色の痰がよく出る」
「肺炎や気管支炎を何度も繰り返している」

こうした症状があると、「喘息かな?」「年齢のせいかな?」と思われる方も多いかもしれません。

しかし、長引く咳や痰の原因のひとつとして、ぜひ知っておいていただきたい病気があります。それが「気管支拡張症」です。

気管支拡張症は、肺の中の空気の通り道である「気管支」が、炎症や感染をくり返すことで広がり、元の形に戻らなくなってしまう病気です。

これまでの治療は、痰を出しやすくすることや、感染を起こしたときに抗菌薬を使うことが中心でした。

そうした中、2026年8月24日、日本で気管支拡張症に対する新しい飲み薬「ブレンソカチブ(商品名:ブリヌスプリ®錠25mg)」が承認されました。成人および12歳以上の小児の「非嚢胞性線維症性気管支拡張症」を対象とした、この病気に対して日本で初めて承認された治療薬です。

この記事では、

  • どんな人が気管支拡張症を疑ったほうがよいのか
  • 気管支拡張症とはどんな病気なのか
  • 現在どんな治療が行われているのか
  • 新しい薬「ブレンソカチブ」に何が期待されているのか

について、できるだけわかりやすく説明します。

1.どんな人が「気管支拡張症」を疑ったほうがいい?

気管支拡張症で特に多い症状は、長く続く咳と痰です。

とくに注意していただきたいのは、「咳は出るけれど、熱もないし、日常生活はできているから大丈夫」と、何年もそのままにしているケースです。

次のような症状がある場合は、気管支拡張症が隠れていないか、一度考えてみてもよいでしょう。

長期間、咳と痰が続いている

ひとつの目安として、痰をともなう咳が8週間以上続いている場合は、気管支拡張症を疑うきっかけになります(長引く咳の原因全般については「長引く咳でお困りの方へ」でまとめています)。

ただし、気管支拡張症だからといって必ず大量の痰が出るわけではありません。痰が少ないタイプもあります。

黄色や緑色の痰をくり返す

ふだんは透明な痰が黄色や緑色になったり、急に量が増えたりする場合は、気道の感染や炎症が強くなっている可能性があります。「風邪をひくたびに膿のような痰が出る」という方も注意が必要です。

なお、風邪のあと痰の少ない咳だけが数週間続く場合は、別の原因(感染後咳嗽など)のこともあります。詳しくは「風邪のあと咳だけ続く・治らない」をご覧ください。

「気管支炎」「肺炎」を何度もくり返している

年に何度も抗菌薬を処方されている方や、「昔から肺炎になりやすい」「冬になると毎年気管支炎になる」という方は、背景に気管支拡張症が隠れていることがあります。

痰に血が混じることがある

気管支拡張症では、炎症によって気管支のまわりの血管が傷つき、痰に血が混じることがあります。

血痰には肺がんなど他の原因もありますので、くり返す場合は「いつものことだから」と放置せず、一度きちんと調べることが大切です。まとまった量の血を吐いた場合は、様子を見ずにすぐ医療機関を受診してください。

息切れや疲れやすさがある

病気が進むと、咳や痰だけでなく、動いたときの息切れや疲れやすさを感じることもあります。

2.気管支拡張症とはどんな病気?

肺の中には、空気を運ぶ「気管支」が木の枝のように広がっています。

健康な気管支では、表面にある細かい「線毛(せんもう)」がベルトコンベアのように動き、細菌やホコリを含んだ粘液を外へ運び出しています。

ところが、感染や炎症などで気管支が傷つくと、気管支の壁がこわれ、正常よりも広がってしまうことがあります。これが「気管支拡張」です。

一度大きく広がってしまった気管支を、現在の治療で完全に元の形へ戻すことは困難です。

さらに問題なのは、気管支が広がることで痰がたまりやすくなることです。

痰がたまる
↓
細菌が増えやすくなる
↓
感染や炎症が起こる
↓
気管支がさらに傷つく
↓
もっと痰がたまりやすくなる

という悪循環が起こります。

気管支拡張症では、この「感染・炎症・気道の傷み・痰の出しにくさ」の悪循環が、病気を進行させる重要な仕組みだと考えられています。

【補足】「非嚢胞性線維症性」とは?
嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)は、欧米に多く日本人にはごくまれな遺伝性の病気で、気管支拡張症の原因になります。これ以外の原因による気管支拡張症を「非嚢胞性線維症性気管支拡張症」と呼び、日本の気管支拡張症の患者さんのほとんどがこちらにあたります。

大切なのは「増悪」を減らすこと

気管支拡張症では、ふだんより

  • 咳が増える
  • 痰が増える
  • 痰が黄色や緑色になる
  • 息苦しくなる
  • 熱が出る
  • 血痰が出る
  • だるさが強くなる

といった状態になることがあります。これを「増悪(ぞうあく)」と呼びます。

増悪をくり返すと、生活の質が下がるだけでなく、その後の肺機能の低下や病気の進行にもつながります。

ですから気管支拡張症の治療では、「咳をゼロにする」ことだけでなく、「肺の調子をくずす回数を減らす」ことが非常に重要です。

3.気管支拡張症はどうやって診断するの?

診断で重要なのが胸部CT検査です。

胸部レントゲンだけでは、軽い気管支拡張はわからないことがあります。そのため、症状や経過から気管支拡張症が疑われる場合は、必要に応じてCTで気管支の形を詳しく確認します。

※当院にはCTがありませんので、CTが必要な場合は連携する医療機関での検査を手配します。

あわせて、

  • 喀痰(かくたん)検査:どんな菌がいるかを調べます
  • 肺機能検査
  • 血液検査

などを行います。

ここで大切なのは、「気管支拡張症があります」で診断を終わらせないことです。なぜ気管支が広がったのか、背景に別の病気がないかを調べることが非常に重要です。

たとえば、

  • 過去の重い肺炎などの感染症
  • 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症・肺MAC症)
  • 喘息
  • ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)
  • 慢性副鼻腔炎(副鼻腔気管支症候群)
  • 線毛の働きの異常(原発性線毛機能不全症など)
  • 免疫機能の異常
  • 関節リウマチなどの自己免疫疾患

などが関係することがあります。原因によって治療方法が変わるためです。

4.これまでの気管支拡張症の治療は?

これまで気管支拡張症には、「この薬を飲めば治る」という治療法はありませんでした。その代わりに、悪循環を作っている一つひとつの問題に対して治療を行います。

① 痰をしっかり外へ出す

気管支拡張症では、痰をためないことが非常に大切です。呼吸法や排痰法(はいたんほう)で、気道の痰を外へ出しやすくします。必要に応じて去痰薬も使います。

一見地味な治療ですが、国際的なガイドラインでも、痰を出す治療(気道クリアランス)は気管支拡張症治療の重要な柱とされています。

② 増悪したときは抗菌薬を使う

痰の量が増えた、色が濃くなった、咳や息切れが急に悪くなった、といった場合は細菌感染が関係していることがあります。その場合は、過去の喀痰培養検査の結果などを参考に抗菌薬を選びます。

③ 増悪をくり返す人には予防の治療を考える

増悪の多い方では、マクロライド系抗菌薬を少量・長期間使う治療が行われることがあります。日本では以前からエリスロマイシンなどを用いた少量長期療法が行われてきました。

また海外では、緑膿菌など特定の細菌が気道にすみついている患者さんに吸入抗菌薬が使われることがありますが、日本では現時点で、気管支拡張症そのものに保険適用のある吸入抗菌薬はありません。

ただし、たとえば肺NTM症が隠れている場合など、単純にマクロライドを長期投与してはいけないケースもあります(マクロライドを単独で長く使うと、NTMの薬が効きにくくなる耐性化につながるおそれがあるためです)。そのため「咳や痰があるから、とりあえず抗菌薬」ではなく、痰の検査を含めてその人の状態をきちんと評価することが重要です。

肺NTM症については「非結核性抗酸菌症(肺NTM症・肺MAC症)とは?」で詳しく解説しています。

5.新しい治療薬「ブレンソカチブ」の登場

2026年8月、日本でブレンソカチブ(商品名:ブリヌスプリ®錠25mg)が承認されました。1日1回飲む錠剤です。

これまでの治療との大きな違いは、気管支拡張症で起きている「好中球性炎症」そのものに働きかけるという点です。

少しだけ仕組みを説明します。

感染から体を守る白血球のひとつに好中球(こうちゅうきゅう)があります。好中球はとても大切な免疫細胞ですが、気管支拡張症では、好中球による炎症が過剰になっていることがあります。

好中球の中には、好中球エラスターゼなどの「好中球セリンプロテアーゼ(NSP)」と呼ばれる酵素があります。本来は体を守るために必要な酵素ですが、気道の中で過剰に働くと、気管支の組織を傷つけ、炎症をさらに強めてしまいます。

6.ブレンソカチブは「骨髄」で炎症の準備段階を抑える

ブレンソカチブの働き方は少しユニークです。

肺に到着した好中球を直接抑えるのではなく、好中球が骨髄で作られ、成熟していく段階で働きます。

好中球の中のNSPが活動できる状態になるには、DPP1(ジペプチジルペプチダーゼ1)という酵素が必要です。ブレンソカチブは、このDPP1の働きを抑えます。

つまり、

「肺で炎症が起こってから火を消す」というより、
「炎症を強める酵素が準備される段階から抑えておく」

という考え方の薬です。これまでの去痰薬や抗菌薬とは、まったく異なる仕組みの治療です。

7.ブレンソカチブで、どのくらい増悪が減ったの?

効果を調べた大規模な国際臨床試験がASPEN(アスペン)試験です。

12歳以上の気管支拡張症の患者さん1,721人が参加し、52週間(約1年)にわたって、ブレンソカチブとプラセボ(有効成分を含まない偽薬)が比較されました。参加したのは、過去1年間に増悪をくり返している方(成人では2回以上)が中心です。

日本で承認された25mgでは、1年あたりの増悪回数は、

1年あたりの増悪回数
プラセボ1.29回
ブレンソカチブ25mg1.04回

となり、増悪の頻度が約19%低下しました。

また、52週間を通して一度も増悪しなかった人の割合は、

増悪なしで1年を過ごせた人
プラセボ40.3%
ブレンソカチブ25mg48.5%

でした。

さらに、肺機能の指標である1秒量(FEV1:1秒間に勢いよく吐き出せる息の量)は、52週間で、

1秒量の低下
プラセボ62mL
ブレンソカチブ25mg24mL

となり、25mgではプラセボより肺機能の低下が38mL少ないという結果でした。

8.ここは誤解してほしくないところです

ここまで読むと、「気管支拡張症を治してくれる薬ができた」と思われるかもしれません。しかし、現時点ではそういう薬ではありません。

ブレンソカチブを飲めば、すでに広がった気管支が元通りになるわけではありません。また、必ず咳や痰がなくなるわけでもありません。

ASPEN試験で最もはっきり示されたのは、

  • 増悪を減らす
  • (25mgでは)1年間の肺機能の低下をゆるやかにする

という効果です。

ですからブレンソカチブは、「こわれてしまった肺を元通りにする薬」というより、「今後の増悪を減らし、できるだけ肺を守っていくことを目指す薬」と考えるほうが、実際の効果に近いと思います。

9.どんな患者さんに特に期待される?

すべての気管支拡張症の患者さんが、同じように新しい薬を必要とするわけではありません。

特に、

  • 1年間に何度も増悪をくり返す
  • そのたびに抗菌薬が必要になる
  • 治療を続けていても咳や痰が続き、増悪をくり返す
  • 今後の肺機能の低下が心配

という患者さんでは、新しい治療の選択肢として検討される可能性があります。

一方、CTで軽い気管支拡張が偶然見つかっただけで、症状もほとんどない方まで、全員が薬を飲む必要があるという意味ではありません。

これまでどの程度増悪しているのか、肺機能はどうか、痰からどんな菌が見つかっているのか、肺NTM症など他の病気がないか。こうした点を含めて考える必要があります。

なお、承認されたことと、すぐに保険診療で処方できることは別です。新しい薬は、国が薬の価格を決める「薬価収載」を経てから保険診療で使えるようになります(2026年9月時点では薬価収載前です)。

10.副作用についても知っておきましょう

新しい薬ですから、良い面だけでなく副作用を知っておくことも大切です。

ASPEN試験では、副作用などの有害事象の頻度はプラセボと大きく変わりませんでしたが、ブレンソカチブでは皮膚の過角化(角質が厚くなる)がやや多く報告されました(25mg群で約3%、プラセボ群で約1%)。

また、この種類の薬(DPP1阻害薬)では、

  • 発疹
  • 皮膚の乾燥
  • 角質が厚くなる
  • 歯ぐきや歯周組織のトラブル

などに注意が必要とされています。服用中は皮膚や歯・歯ぐきの状態にも目を配り、変化があれば我慢せず主治医に相談してください。

また、本剤の服用中は、生ワクチンの接種は避けることとされています(安全性が確認されていないため)。ワクチン接種の予定がある方は、事前に主治医にお伝えください。

まとめ:「長引く咳・痰」をただの体質と思わないでください

気管支拡張症は、喘息やCOPDほど名前を聞く機会の多い病気ではありません。そのため、

「昔から痰が出るから」
「風邪をひくといつもこうなるから」
「年齢のせいだろう」

と、何年も診断されないまま過ごしている方もいます。

しかし、長引く咳と痰、くり返す気管支炎や肺炎には、原因があります。

気管支拡張症であれば、まず正しく診断し、痰を外へ出す治療、感染症の管理、必要に応じた抗菌薬治療などを組み合わせることが大切です。

そこに2026年、新たに「好中球性炎症そのものを標的とするブレンソカチブ」という選択肢が加わりました。

これは気管支拡張症が一度に治る「魔法の薬」ではありません。それでも、

「悪くなったら抗菌薬で治す」だけだった治療から、
「増悪そのものを起こしにくくする」治療へ。

気管支拡張症の治療にとって、大きな一歩といえます。

「咳や痰が何か月も続いている」
「何度も肺炎や気管支炎をくり返している」
「痰の色がいつも黄色や緑色」
「以前、CTで気管支拡張があると言われた」

という方は、一度呼吸器内科で相談してみてください。咳や痰を「いつものこと」で終わらせず、その原因を調べるところから治療は始まります。

よくある質問

Q.気管支拡張症はうつりますか?
A.気管支拡張症そのものは人にうつる病気ではありません。ただし、原因として結核などの感染症が関わっている場合は別に検査が必要です。

Q.ブレンソカチブはすぐに処方してもらえますか?
A.2026年8月に承認されましたが、保険診療で使えるのは薬価収載後です。また、対象となるかどうかは増悪の回数や検査結果などをふまえて判断します。

Q.咳止めを飲んでいれば大丈夫ですか?
A.気管支拡張症では、痰を無理に止めるより「外へ出す」ことが大切です。長引く咳・痰は、自己判断で咳止めを続けず、一度原因を調べることをおすすめします。

京都市伏見区醍醐で長引く咳・痰にお困りの方へ

辻医院では、内科・呼吸器内科の診療を行っています。呼吸器専門医が症状や経過を伺い、胸部X線検査、喀痰検査、呼吸機能検査などを検討します。当院にはCTがないため、CTによる詳しい評価が必要な場合は連携する医療機関での検査を手配し、結果をふまえて治療方針を一緒に考えます。肺NTM症など専門的な精査や治療が必要な場合は、適切な医療機関へご紹介します。

何か月も続く咳や痰、繰り返す気管支炎・肺炎、以前CTで気管支拡張を指摘された方のご相談・ご予約は、Web予約より承っています。

診療時間
午前 9:00〜12:30(受付 8:45〜12:15)
午後 17:00〜19:30(受付 16:50〜19:15)
休診:日曜・祝日、水曜・土曜の午後
アクセス:京都市伏見区醍醐合場町18-11(石田駅から徒歩10分/京阪バス「合場川」停留所から徒歩1分)


この記事を書いた人
辻 泰佑(医療法人緑萌会 辻医院 副院長/呼吸器専門医)

参考文献

  1. インスメッド合同会社. ブリヌスプリ®(一般名:ブレンソカチブ水和物)の日本における製造販売承認取得について. 2026年8月24日. プレスリリース(PDF)
  2. Chalmers JD, et al. Phase 3 Trial of the DPP-1 Inhibitor Brensocatib in Bronchiectasis. N Engl J Med. 2025;392:1569-1581. PubMed
  3. Chalmers JD, et al. European Respiratory Society Clinical Practice Guideline for the Management of Adult Bronchiectasis. Eur Respir J. 2025.
  4. European Lung Foundation. Managing bronchiectasis in adults (2025).
  5. Asthma + Lung UK. Diagnosing bronchiectasis.

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものです。実際の診断・治療内容は、症状、検査結果、併存疾患などによって異なります。気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください。

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